英国でポスドクをして大学教員になった若手研究者のブログ

ポスドクの研究留学日記的なブログ

2018年3月31日土曜日

恩師の言葉

どうも、Yskです。
今年も綺麗な桜の季節になりました。

Yskの仕事は何も変わらず教育と研究に励む毎日ですが、今年の春は仕事とは違った所で大きな変化のある春です。

多くの人には誰も皆、師と仰ぐ人がいるものです。
特に学術や芸術、スポーツの世界では、そう言う人の繋がりがあるものです。

Yskにもそんな恩師がいます。
しかしこの春は、その恩師を送り出す春となりました。
いつかそう言う時が来るのは自然の事なのですが、こんなにも早くアカデミアの表舞台から降りる時が来るとは夢にも思っていませんでした。

Yskを育てこの世界に送り出してくれた恩師を、忘れることはありません。
今でもずっと背中を追いかけているつもりです。

今日は、新しい春への区切りとして、心に残る師の言葉を記しておこうかと思います。


1.観察・考察・洞察
門出の際に、弟子達皆がいただく言葉です。
研究者としてとても大切な思考。この思考を掘り下げると三つの察になる。

ちなみに、「思考・努力・忍耐」が師の師匠の言葉です。

こんな話もあります。ある実験のTLCを見ていたのだそうです。
「大学院の授業中にTLC持って行って眺めながら、考えていたら授業が終わっちまったよ」
とてつもない観察ですね。


2.君はナタかカミソリか?
切れ味鋭く、頭脳明晰に研究を展開するカミソリ。
泥臭くも地道に努力に努力を重ねて仕事を貫徹するナタ。
カミソリの方が格好いいです。目立ちます。光ります。しかし、

「ナタは大木も落とせるんだぜ」

※これには裏話が少しあります。これを言った人は師が最初ではないようです。
最初に言った先生にお話を聞いたことがあります。その先生がおっしゃるには、
「ナタは髭も剃れる」
だそうです。

どっちも深い。


3.有機合成は化石堀り
宇宙が出来たその時から、化学反応というのは存在している。
あたかも自分がその化学反応をゼロから創ったかの様に偉そうなことを言う人がいるが、それは間違いだ。
大昔からそこにある化学反応を、掘り当てた、と言うのが正しい。
恐竜の化石堀りさ。化学であっても、自然の摂理に対する尊敬の念を持たないとね。
自然の摂理に対する尊敬の念と謙虚さを持っていれば、真実をねじ曲げることなども出来るわけがない。


4.俺なんていっつもドラえもん
こんなこっといいな♪でっきたらいいな♪あんなゆっめこんなゆっめいっぱいあるーけどー♪
いきなり軽くなりましたが、ご自身の発想はいつもこんな感じ。
思いついた発想に関して文献検索した時に、同じ事している人が既にいると、
「けっ!真似しやがって」
となるが、これは一部悔しく、一部敬意を持ち、一部安心している。

先生が知っているのかどうかは不明ですが、
ちなみに、ドラえもんの歌の次の歌詞はこうなります。

「みんなみんなみーんな♪かーなえってくれる♪、、、、、」
あれ??叶えるのって、、、我々、、、笑


5.俺たちは一流の現場の人間。彼らは二流の評論家。そんなもん読んで一喜一憂する必要なし!
これは話が長くなりますが。Ysk一番の衝撃でした。
評論家が二流だと言うのではありません。一流の気概と姿勢を教えてくれました。
詳細は→こちら


6.正確なデータは科学のαでありまたωである
これは、師の師匠の言葉ですが。私は恩師から伝えられました。
あやふやなデータを出して持って行くと、こう怒られたものです。
科学のα、そしてωの意味については→こちら


7.ジェネラリストはスペシャリストにはなれない。しかしその逆は有りだ。
これがYskを博士課程へと後押しした言葉です。
現在Yskはスペシャリストの道で仕事をしています。
しかしその逆は有りなのですから、ジェネラリストとしての自分も磨きたいものです。


8.博士号は免許皆伝
博士号を取ったら偉いのではない。単なる免許。これからどうするかが大切。
それを忘れてはいけない。
シンプルですが重い言葉です。


9.学生ってのは大きく三つに分かれるな。こっちが言ったこと以上のことやるやつ。こっちが言ったことはやるやつ。こっちが言ったこともやらないやつ。
お前はどれだ?

たぶんこれはどことかで聞いたことがある言葉なので、オリジナルの言葉ではないと思います。いや、でもそうやって育てられましたね。頭を使うことを覚えました。


10.良い仕事とは何だね?
これも師の師匠の言葉。これを頭に浮かべると今でも答えに窮するとおっしゃっていた。
簡単なようで難しい。Yskもこれだ、と言える答えはまだ出ていません。
「良い仕事をしよう」これが一門の伝統です。


11.愛すれば愛するほど愛されなくなるのか。。。これは嘘だ!
「愛すれば愛するほど愛されなくなるのか」は聖書の一節だそうです。
しかし研究においてはそうではない。そう自分は信じる。そう強く言っておられたのはいつも印象的でした。好きなんですよね。化学が。


12.80点10個なんていらん。100点満点1個が欲しい
この姿勢でした。本当にこの姿勢はかたくなだったと思います。
だから作品とも言える完成度の高い研究になっていたんだと思います。
Yskが科学と芸術は重なる部分がある、と思うに至ったのはこういった所です。


13.一発芸です!
これは、ある大きな学会で、会う先生会う先生皆さんが、恩師の仕事について「面白い」と褒めてくれた時のこと。後ろをちょぼちょぼとついて行っていたYskの前で、いつもその様に返事をされていました。普通は嬉しいはずなのに。
芸なんですね。研究が。自分にはできない姿勢だと思ったものです。


14.バカも磨けば光るもんだな
これは褒め言葉。Yskがイギリスに行く前に言ってもらえた最大の褒め言葉。
これがあるので、Yskの今があります。
大学に務める者は、研究者であると同時に教育者です。
それを絶対に忘れてはいけません。
だからYskの周りにいるどんな出来の悪い学生も、見捨てることはありません。
自分がそうだったからです。教育者ってそうじゃないと。あの丸い背中が鏡です。


いざ思い出そうとすると、なかなか出て来なくなってしまったのが残念ですが、現在の所はこのくらいでしょうか。
響く言葉が多かったです。まだまだある気がします。その都度書き加えて行こうかと思います。
この春からは大きな横綱的存在に頼れなくなってしまうのですが、恩師の言葉を胸に、大の甘えん坊から独り立ちしようかと思います。

皆さんにも、実り多き一年がまた始まりますように。

Yskでした。

2019.7追記
15.幾千年にわたる人類苦心の業績ーこの高貴なるものによせる愛情と尊敬を忘れてはならぬ

 これは教育者・研究者としての愛の原点である。そう教わりました。言われてみれば当然なのかもしれませんが、気がつくとそれに反しているのを目にすることも、、、。我々は導かれてここまで来ているのであり、そして誰かを導くのです。テキトーで良いわけがありません。重い言葉です。