英国でポスドクをして大学教員になった若手研究者のブログ

ポスドクの研究留学日記的なブログ

2017年5月9日火曜日

椎間板ヘルニア闘病記③:ヘルニア除去術と全身麻酔のリスク管理

 こんにちはー。Yskの闘病記:第三弾です。(第一弾はこちら。第二弾はこちら。)
今日はリスク管理について考えました。随分と内容が硬くなってきたので、楽しく読めないと思いますし、多少賛否両論ありそうな内容にもなっていますが、興味が沸けば嬉しく思います。なお、今現在、Yskのいる病室の隣には小学生の女の子がいます。よく手術を決断したなと思い、その勇気と決断を讃えると同時に、来る手術の成功を心から祈るばかりです。今回のお話は、そんな彼女への応援の辞でもあります。では、スタートー♪

 今回のヘルニアの手術を決断する前には、本当に色々な人の話を聞いた。(専門・非専門含めた)医師はもちろん、その他の医療従事者、ヘルニア経験者、腰痛持ちのお仲間(手術未経験)、針鍼灸医(東洋医学)、などなど。その節は、それぞれの立場から色々なアドバイスをいただき、本当に参考になった。まずこの場をかりて御礼申し上げる。
 しかし一方で、実際に色々と詳しく調べて見ると、ちょっと行きすぎた意見ではないか?とか、誇張して危険を煽ってはいないか?と思われる記述がとても多いことに驚いた。これは患者自身が正当な判断を下すのには、いささか障害となると思われる。そこで、今回は、Yskが手術(あくまでヘルニア除去術)と全身麻酔のリスクについて考察した内容について書いてみたいと思う。

 さて、Yskは最終的に手術を選択したわけだが、手術を絶対にやりたくない、という人の考えは大きく分けると次のようである。
全身麻酔と手術の危険性
痛みに耐えられそうにない
単純に体を切るという行為を受け入れられない
 それ以外にも色々とあるだろうが、大きくはこの3つだと思う。結論から言って、実際に1週間前に手術を受けた今の感想を言えば、「長年痛みに苦しむくらいなら、早い所原因を摘出除去してしまった方がより快適だ」と思う。では、なぜ手術に踏み切れない人が一定数いるか、と言うのが上記の理由であろう。
 ③に関しては、どうしようもない。個人の強い意志を変えさせるというのは、他人の力ではどうしようもない。しかし、これを理由とする人はそこまで多くないと思っている。何かを恐れているのが普通である。
 では次に②はどうか。確かに手術に痛みはつきものだ。Yskがやってみた感想でも、痛くなかったと言えば嘘になる。しかし、我慢出来ないくらいの痛みだったか?と問われれば、答えは明確にNoである。前回の投稿を読んでもらえれば良いと思うが、個人に合った鎮痛剤(自分の場合はボルタレン系のロピオン)を上手く使用すれば、かなり痛みは軽減された。(尿管カテーテルの抜管に関しては課題が残るが、、、)もう既に経験してしまったから言えるのかとは思うが、手術・術後の痛みのコントロールは十分可能で、安静にすることや痛くない方法を探れば、それほどのストレスにはならないと思う。一方で、痛みの感じ具合は人それぞれと言う医師の説明も実際にあったように、Yskの経験談が全てではなかろう。Yskが言えることは、「少なくとも痛みをまだまだ敏感に感じやすい30代男の身体が内視鏡施術を経験した限りでは、思ったよりも簡単に痛みに耐えることが出来た」と言うことだ。なお、歳を取れば取るほど痛みには鈍感になると言う。また男性よりも女性の方が(出産を経験するからかもしれないが)痛みには強いと言われている。と、ことわりを入れた上だが、手術・術後の痛みのコントロールは日々進歩していて、少なくとも内視鏡下の侵襲の小さな手術においては、手術未経験者が持つイメージよりもはるかに痛みは緩和されていると思っている。(なお、隣の病室や同じ病棟には、侵襲の大きな古典的LOVE法で手術を行った患者さんが大勢いたが、痛みに耐えかねて苦しんでいる様子は見られなかった。このことからも、痛みのコントロールという技術は近年著しく進歩していることを伺わせる。)経験談としてアドバイスをするなら、「低侵襲・最小侵襲=痛みの低減」なので、低侵襲手術を標榜している医師や病院を選択することを勧めたい。

 さて、やはり一番大きな問題と捉えられるのは、①の手術・全身麻酔のリスクだろう。手術の失敗や麻酔の事故に関する事を見聞すると、一歩が踏み出せなくなるのだと思われる。そして「切らない治療」へと考えが向く。しかし、椎間板ヘルニアの場合は、切らない治療を選ぶにしてもそれも、あらゆる治療の予後を考えた場合には、お金と時間と回復の頂点をいつも天秤にかけなければならない事を考える必要があるだろう。これについては前回詳しく述べた。→こちら。(もちろん、体力やその他の疾病のせいで手術が出来ない場合も多々ある。特に高齢者は。今回はそれらの場合は除くこととする。)自分の体験で言えば、切って良かったと思う。足の痺れはほぼ完全に消えている。これが術後すぐに感じられるのだ。もう痛み止めを必要とせずに寝られる。効果てきめんだ。なので、簡単に手術が行える人はその方が良いと、勧めたい。しかし、拒む人の心理も理解できる。失敗のリスクヘッジが問題なのだろう。もちろん、人間がやる手術である以上、失敗が完全に0%であることはあり得ない。しかし、患者自身が気をつけることで失敗のリスクを格段に下げることはできるだろう。その方法を考えたいと思う。
 まず、手術の失敗であるが、これはどの様な内容だろうか。
1.神経を傷つけてしまって、腰痛や足のしびれが増大してしまった。
2.体内に異物を残したまま手術を終了してしまった。
3.余計な部分を切除してしまった。または患者を間違えた等により、切除する部位を間違えた。
4.切ってはいけない血管を切ってしまって出血多量になり、輸血が必要となった。(ただし、椎間板ヘルニア除去術の場合、太い血管付近は切られない。)
などが代表的な手術の失敗であろう。さて、これをどれほど確実に回避できるだろうか。椎間板ヘルニアの場合、4は除外できる。3はもはやあってはならないミスである。今回の手術でも、と言うか点滴一つ、採血一回やるだけでも、フルネームの確認と薬剤や容器に書かれた名前の一致をチェックしていた。この取り組みはもはや現代では普通だろう。少なくとも、大きな病院ではチェック体制というのは二重三重にされている印象で、この手の間違いは起きにくいように思う。心配する人は、チェック体制の強化された病院を選ぶべきか、そのような体制が敷かれているか事前に聞くべきだろう。2ももってのほかと言えるミスである。時々そのようなニュースを目にする。しかし一考すべきは、どれも随分前の手術である。現代の手術では手術を終えて皮膚を閉じる直前やその直後にレントゲンの撮影をするようだ。Yskの画像も見せてもらえた。この時に何かとんでもない物が残されていれば、速やかに対処されるだろう。つまり、現代の方法ではあり得ないと考えても良さそうだ。なお、手術に使う道具や器具等は、術前術後で数が合うかチェックされる。今回の様に、内視鏡下の場合、切開創が小さいために大きな異物は入りにくい。こういった点も安心感を与えると思われる。つまり、総じて2、3のリスクはチェック体制が強化されていれば回避が可能である。
 問題は1であろうか。これは症状によるだろう。重度のヘルニアで長年放置された場合、神経とヘルニアが膜を介して癒着してしまう。これを剥がしながら除去するとなると、多少なりとも神経が傷つけられるリスクが増す。(だからこそ、切除するなら癒着の無い段階、つまり早いほうが良いのだ。これは予後の回復にも大いに影響する。)個人的には、ヘルニアを全て除去すると神経を傷つける可能性が上がると言うなら、癒着した部分を完全には除去せずに、ヘルニアになっている飛び出した随核を上手く切除して、癒着した部分は残すという選択肢もあるのではないかと素人ながら思うのだが、これは機会があれば担当医に聞いてみようと思、、、、ったら先生がいらっしゃったので聞いてみたところ、神経保護は最優先課題なので、そのような場合は積極的に癒着した部分を残すようにするとのことだった。これは安心材料である。結論から言えば、ヘルニアを長期間放置しないで、早い段階で手術をすれば、神経を傷つける可能性のある癒着を防げると言うことだ。なお、手術中に神経を避ける場合は特殊な器具を使って防護するらしい。それを使うのに癒着があると、使いにくいことにもなり安全度が下がる。逆に言えば、その器具で神経が守られる状況なら、神経が無駄に傷つくことは考えにくいと言えるだろう。

 そして、ここからは全身麻酔の危険性を考える。全身麻酔による事故は様々考えられるが、最も恐いのは合併症だろう。今回、麻酔科医の先生から「麻酔のしおり」というパンフレットをもらって熟読した。良い事も悪いことも書いてあったので、それを参考にしてYskの考えを書いておくことにする。まずは合併症の紹介を簡単に。
1. 歯が抜ける→これは麻酔から覚めた直後チューブを抜く際にチューブを強く噛むことがあるため。(重大事故と感じる人は少ないと思っている。)(あまり聞かない)
2.声がかすれる→特に問題は無い。一日くらい時間が経てば元に戻る。
3.誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)→これは割と大きな問題。胃酸や胃の中の物が肺に入ってしまって引き起こされる。対策は後述。
4.気管支痙攣、喉頭痙攣→チューブの刺激やそのアレルギー反応によって起こる可能性があるが、麻酔科医の処置により回復は十分可能。(大きな問題にはならない)
5.アレルギーによる蕁麻疹や呼吸困難(喘息?)。これもアレルギー反応であるので、薬剤での対処が可能。
6.悪性高熱症。これは遺伝的要因。近親者にそのような人がいなければまず問題にならないらしい。
7.肺塞栓症(エコノミー症候群)。血栓が心臓から遠い足にできて、その血栓が肺の血管に詰まってしまい、呼吸困難や胸の痛み、時には心停止を引き起こす可能性がある。これは発症すると危険なので、念入りに防ぐ必要がある。方法については後述。
 以上が全身麻酔で注意すべき合併症である。こう見ると、3の誤嚥性肺炎と7の肺塞栓症が大きなリスクとなると言えよう。では、その予防策を並べてみる。
 まずは誤嚥性肺炎について。これは術前の絶飲食を徹底すること、アリスタット(胃液を抑える薬)を飲むこと、アクアソリタで少量出た胃液を下へと洗い流すこと、更にその上でアリスタットを再度飲むこと。これで胃液による胃の中の酸性度を抑えて、中性で空っぽにする。この状態で仮に履いたとしても胃酸による肺の炎症を防ぐことができる。さらに言うと、前日の絶食後、当日の絶飲食後、さらには術前に歯磨きを念入りにすることも重要と考える。口腔内の細菌数はとても多いのだ。それゆえ、胃の中をからっぽにするのに加えて、口の中もキレイに洗浄し、最後はリステリンなどの殺菌剤で口腔内も清潔にしておくことは有効だろう。これにより、誤嚥性肺炎は防ぐことがかのうかと思われた。更に、喫煙者は禁煙をした方が良さそうだ。手術後にはどうしても痰が出やすくなる。それを排出するのには咳をする必要があるが、肺の機能が弱っているとそれが出来にくくなってしまう。そう言った意味では、特に高齢者は常日頃から心肺機能を鍛えておくことが重要であろう。肺の機能を高めておけば、術後の肺炎も防げるし、血中酸素濃度の低下による低酸素血症および無気肺の危険性も格段に下がると考えられる。手術が決まってからでも遅くないので、運動とも言えるくらいの大きな深呼吸をはじめ、ある程度の運動で心肺機能を鍛えておくことが勧められると思う。ついでに、素人の考えだが、高所トレーニング(低酸素トレーニング)を積んでから手術をしたらどうなるか考えてみたのだが、通常は酸素を血中に取り込む能力が上がることを考えれば、ある程度の良い影響があるかもしれないな、と興味が沸いた。しかし、これは対して効果は無いかも知れないYskの憶測である。
 続いて肺塞栓症について考察を重ねたい。いわゆるエコノミー症候群であるが、これは心臓から遠い足の血流が悪くなることによって血栓が出来てしまうことが要因である。その血栓が肺に行ってしまうと危険な状態となる。これを防ぐために、手術中に足にマッサージャーを装着し、心臓へと血液を送り返す運動を促すのだ。さらにキツイ靴下も履く。血栓ができたとしてもそれを肺へと送らないためだ。更に、高齢の方が説明を受ける様子を聞いたのだが、血栓ができやすいと判断された人は、一時的に血液をサラサラにする(コレステロールを下げるとは限らない)薬剤を投与して、血液の凝固を防ぐらしい。ここまで管理が徹底していれば、安心感は増すのではないだろうか。なお、血栓ができやすい人もいるようで、そのような人や発症しやすい状況はある程度データから類推できる。手術の前にしっかりとカウンセリングと検査を受け、手術に臨むことが重要であろう。
 その他真剣に考慮すべきは、麻酔科専門医が事前調査と実際の処置をするかどうかだと思う。医師は一度医師国家資格を取ってしまえばある程度はなんでもこなせる。麻酔科だけは厚労省の許可が必要だが、それも高度な知識と技術を持つ専門医や認定医、指導医とは異なる。全身麻酔によるリスクを少しでも回避するためには、専門医などの高度な技術と知識を持つ麻酔科医のいる病院で手術を検討した方が良いと思う。


 以上、手術と全身麻酔に関するリスクについて考えてきたが、まとめとしてYskが考えるのは、必要以上に手術・全身麻酔を恐れるのは自身の利益にならない場合があるということだ。ひとたび全身麻酔のリスクを調べると、危険性の煽りとも受け取れる内容が多く目に付く。例えば、「全身麻酔が効くメカニズム(理由)は分かっていないから危険」との記述。同じ方向性で言うなら、実は飛行機はなぜ飛ぶのかは完全には分かっていない。しかし経験的に上手く飛ぶことが分かっているので、ここまで大規模な航空産業が成り立っている。だから、ちょっといいかげんとも言える麻酔関連の記述には惑わされるべきではないだろう。全身麻酔で死亡した例があるから止めよう、と言うのは、飛行機は落ちたら死ぬので乗るな、と同じであり、全身麻酔だけがあたかも非常に危険かのような記述はされるべきでないだろう。経験則(統計学的結論)も立派な科学的データであり、調査母数の多い今回のケースに関しては信頼されるべきだと考える。(ただし、本当の危険性に関しては熟考して判断すべきである。)(また、これは行きすぎた意見かもしれないが、中には危険性の一部分だけを取り挙げて売り込む困った東洋医学者もいる。医療生命保険関係者が情報の発信源だと、内容に嘘は無くても、多少なりとも保険の営業の臭いがするものもある。)これは恐怖心を煽って本来患者が取るべき最良の治療法を妨げる結果的ともなり得、しいては患者自身が不利益を被ってしまうことになりかねないと一患者としてYskは思う。最終的にリスクを判断するのは患者自身かその家族となるが、不必要な煽りには流されずに、きちんとしたデータと考察に基づいて判断することが肝心かと思われる。ただし、それでも判断と選択の自由はあるのだから、患者自身の意思が一番に反映されるべきだろう。

以上、Yskでした。次回は今度こそ歩行・リハビリ編!
最後に、今回手術前にカウンセリングを受けた時にもらった「麻酔のしおり:日本麻酔科学会より」の一部を載せておこうかと思います。参考になれば幸いです。(問題あるのかな、、、これ。利益目的じゃないから大丈夫だと思うのですが、問題あればそのうち削除します。)







どような健康状態で全身麻酔を受けるのかが重要ですね。日頃から健康には気をつけましょう!

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